イタリアの治安情報と観光客が注意すべき危険エリア

イタリア、その言葉の響きだけで、私たちの心は古代ローマの遺跡へ、ルネサンス芸術が花開いたフィレンツェへ、そして陽光あふれる南部の海岸へと飛んでいきますよね。私も初めてイタリアの地に足を踏み入れた時、その圧倒的な歴史の重みと、街角にあふれる陽気な活気に、すっかり心を奪われてしまいました。美味しいパスタとワイン、気さくな人々との会話、毎日がまるで映画のワンシーンのようでした。

でも、そんなキラキラした思い出の裏側で、残念ながら「もう少し気をつけていれば…」と後悔するような話も少なくないのが現実です。特に、世界中から観光客が集まるこの国では、スリや置き引き、巧妙な詐欺といった軽犯罪が日常的に発生しています。日本という世界でも特に安全な国で暮らす私たちにとって、その感覚の違いは想像以上かもしれません。

だからこそ、今回はイタリア旅行を計画しているあなたに、ただ「気をつけて」と言うだけでなく、具体的に「どこで」「どんなことに」気をつけるべきなのか、そしてどうすればそのリスクを最小限にできるのかを、私の経験やリサーチを元にお伝えしたいと思います。これは脅しではありません。最高のイタリア旅行を、心からの笑顔で締めくくるための、大切な準備運動のようなものです。

イタリアの治安、実際のところどうなの？

「イタリアって、治安が悪いの？」これは本当によく聞かれる質問です。正直に答えるなら、「日本のようには安全ではないけれど、過度に恐れる必要はない」というのが私の答えです。外務省のデータを見ても、イタリアの犯罪発生率は日本よりかなり高いのが事実。特に、スリや置き引きといった、いわゆる「窃盗犯罪」が観光客を悩ませています。

ただ、重要なのは、これらの多くが凶悪犯罪ではないということです。もちろん、夜間の人気のない場所を一人で歩くといった無謀な行動は避けるべきですが、日中の観光地で命の危険を感じるような場面に遭遇することは稀でしょう。問題は、私たちの「平和ボケ」とも言える感覚が、スリなどの犯罪者たちにとって絶好のターゲットに見えてしまうことなんです。「日本人は現金を持ち歩いている」「警戒心が薄い」というのは、残念ながら海外では広く知られたイメージ。カフェの椅子にバッグをかけたまま席を立つ、スマートフォンの操作に夢中になる…そんな日本では当たり前の行動が、イタリアでは「どうぞ盗んでください」というサインになりかねません。

実際に、ローマやミラノなどの大都市では、観光客の安全を守るために警察官が常にパトロールをしていますし、以前に比べれば治安は改善しているという声も聞きます。しかし、彼らが全ての犯罪を防げるわけではありません。「自分の身は自分で守る」という強い意識を持つこと。それが、イタリア旅行を楽しむための最初の、そして最も重要なステップなのです。

【都市別】特に注意したい危険エリア

イタリア全土が危険というわけでは決してありません。しかし、観光客が集中する大都市には、犯罪者が活動しやすい「ホットスポット」が存在します。これらの場所を知っておくだけでも、心の準備が大きく変わってきます。

ローマ：永遠の都に潜む影

ローマで最も注意が必要なのは、やはり交通の要所であるテルミニ駅周辺です。多くの路線が乗り入れる巨大な駅は、人の流れが複雑で、スリや置き引きが暗躍するには格好の場所。特に、夜間は雰囲気が一変し、駅周辺の治安は悪化する傾向にあるため、夜遅くの到着や出発はなるべく避けたいところです。また、コロッセオやトレビの泉、スペイン広場といった超有名観光地も、その混雑ゆえにスリの多発地帯となっています。美しい景色に気を取られている一瞬を、彼らは見逃しません。

ミラノ：ファッションの都の裏通り

ファッションと経済の街ミラノでは、中央駅（Milano Centrale）が最大の要注意スポット。その壮麗な建築とは裏腹に、駅構内や周辺は常に警戒が必要です。大きな荷物を持った旅行者は特に狙われやすく、チケットの購入時や電車の乗降時は一瞬たりとも気を抜かないでください。また、きらびやかなドゥオーモ周辺や高級ブランド店が並ぶエリアも、買い物客を狙ったスリが多発しています。

ナポリ：情熱の街での心構え

「ナポリを見てから死ね」と言われるほど美しい街ですが、残念ながらイタリアの中でも特に犯罪率が高い都市として知られています。特に多いのが、バイクを使ったひったくり。車道側を歩きながらバッグを持っていると、あっという間に奪い去られることがあります。中央駅（Napoli Garibaldi）周辺や、旧市街のスパッカナポリ、スペイン地区などは、魅力的な観光エリアであると同時に、犯罪者にとっても稼ぎ場所。狭い路地が多いので、常に周囲を警戒し、高価なアクセサリーや時計は外しておくのが賢明です。

駅の券売機の前に並ぶ人々の後ろ姿 — 駅や公共交通機関は、まさにスリの仕事場。親切を装って近づいてくる人にも、少しだけ警戒心を持つことが大切です。Source: Maxim Titov / pexels

こんな手口に気をつけて！観光客を狙う犯罪パターン

イタリアの犯罪者は、ただ力ずくで奪うだけではありません。思わず同情してしまったり、親切心から応じてしまったりするような、巧妙な手口も多いのです。

代表的なのが、ミサンガ詐欺や署名詐gisです。フレンドリーに話しかけてきて、気づけば腕にミサンガを巻かれ高額を請求されたり、障害者のための署名だと偽って近づき、仲間がバッグを盗んだりするケースです。彼らは集団で行動していることが多く、断るとしつこく付きまとわれることも。毅然とした態度で「No!」と告げ、その場を立ち去ることが重要です。

また、駅の券売機で戸惑っていると「手伝うよ」と声をかけてきて、お釣りを盗んだり、操作料をだまし取ったりする親切詐欺も後を絶ちません。レストランでのぼったくりも古典的な手口。メニューに値段が書かれていない店や、観光客向けの客引きがしつこい店は避け、注文前には必ず料金を確認しましょう。

これらの手口を知っておけば、「あ、これって…」と事前に気づくことができます。見知らぬ人からの過剰な親切や、不自然な接触には、まず「怪しい」と疑うくらいの心構えでちょうど良いのです。

最高の旅にするための具体的な防犯対策

では、どうすればこれらの危険から身を守れるのでしょうか。難しいことはありません。いくつかの基本的なルールを守るだけで、被害に遭う確率は劇的に下がります。

1. 貴重品の管理を徹底する これが最も重要です。現金は分散させ、その日に使う分だけをすぐに取り出せる財布に入れておきましょう。パスポートや予備のクレジットカードは、服の下に身につけるセキュリティポーチに入れるのが最も安全です。バッグは必ずファスナー付きのものを選び、体の前で抱えるように持ちましょう。リュックサックを背負うのは、スリにとっては格好の的です。

2. 「スキ」を見せない 歩きスマホは絶対にやめましょう。地図を見たい時や写真を撮りたい時は、一度立ち止まり、壁を背にするなどして周囲の安全を確認してから。高価なブランド品で身を固めるのも、「私はお金を持っています」と宣伝しているようなもの。なるべく現地の風景に溶け込むような、シンプルな服装を心がけることも防犯対策の一つです。

3. 毅然とした態度を貫く 怪しいと感じる人や、しつこい物売りには、決して曖昧な態度を取ってはいけません。目を合わせず、はっきりと「No, grazie（結構です）」と伝えて無視しましょう。少しでも話を聞いてしまうと、彼らはあなたが断れない性格だと見抜き、さらにしつこくしてきます。

万が一、被害に遭ってしまった時のために、クレジットカード会社の緊急連絡先や、海外旅行保険の連絡先は必ず控えておきましょう。パスポートを盗まれた場合は、すぐに現地の警察で盗難証明書を発行してもらい、日本大使館または総領事館に連絡してください。