水生外来生物や生態系保全における専門家の役割、法規制、および企業や市民が参加可能な具体的な取り組みやプログラムについて解説します。
水生外来生物問題と生態系保全における専門家の役割
生態系保全における専門家の主な役割
- 外来生物の影響度・防除緊急度の科学的評価 — 外来生物リストの作成・更新を通じた優先順位付け
- 行政の施策決定や法改善に対する根拠の提供 — 優先駆除・管理対象の明確化に向けた科学的知見の提供
- 行政・企業・地域住民の連携とダイアログの促進 — TNFDのLEAPアプローチやワークショップ等での専門的インプット
- ネイチャーポジティブ実現に向けたビジョン描出 — 駆除にとどまらない持続可能な地域社会との共生方針の検討
もともと日本国内の自然環境に存在しなかった外来生物は、人間活動によって国内外から持ち込まれ、固有の生態系、人間の生命・身体、農林水産業に深刻な影響を与えています。特に湖沼、河川、水路などの水域に侵入した水生外来生物(オオフサモ、オオバナミズキンバイ、ナガエツルノゲイトウなどの外来水生植物や、カミツキガメ、アメリカザリガニなど)は、強い繁殖力で在来の動植物を圧迫し、水質や水利機能にも悪影響を及ぼしています。こうした生態系への脅威に対処するには、科学的な知見を持った専門家の関与が欠かせません。
国レベルや地域圏レベルでは、水生外来生物に関する専門家の協議会や委員会が組織され、対策推進で主要な役割を果たしています。例えば千葉県では、専門家による「千葉県希少生物及び外来生物に係るリスト作成委員会」が設けられ、県内における外来生物の生態系等への影響度や防除の緊急度を評価した「千葉県の外来生物リスト」を作成・更新しています。こうした科学的評価は、どの生物を優先的に駆除・管理すべきかという行政の施策決定や、外来生物法の規定改善における根拠として活用されています。
専門家は、行政機関や民間企業、地域住民をつなぐ役割も担っています。企業がTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づいたLEAPアプローチ(発見・診断・評価・準備)を実施する際や、サプライチェーン上の自然依存・影響を評価する際にも、有識者や専門家とのダイアログやワークショップは重要なインプットになります。専門家と議論を重ねることで、単なる駆除作業にとどまらず、地域全体がネイチャーポジティブ(自然の回復)を実現するためのビジョンを描き、持続可能な地域社会との共生を考えやすくなります。
外来生物法と行政による防除・法規制の枠組み

日本における外来生物対策の法的な根拠となっているのが、2004年に公布された「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」です。この法律では、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼす、または及ぼすおそれがあるものの中から「特定外来生物」を指定し、その飼育、栽培、保管、運搬を原則として禁止しています。違反した場合には重い罰則が課され、一般市民や事業者にも厳格な遵守が求められます。
特定外来生物が生息・生育してしまった場合には、土地の所有者や管理者が早期に防除することが重要です。ただし、防除目的であっても、特定外来生物を生きたまま保管や運搬する行為には、外来生物法に基づく個別の防除確認や認定が必要となります。例えば千葉県では、印旛沼等で生息が確認されているカミツキガメの捕獲事業や、ナガエツルノゲイトウ等の外来水生植物の防除計画が策定され、自然保護課や県生物多様性センターが中心となって対応にあたっています。野生鳥獣に該当する外来生物の捕獲については、外来生物法だけでなく鳥獣保護管理法も適用されるため、行政の窓口を通じた正確な手続きと連携が求められます。
行政は、こうした法規制の運用と並行して、日常生活で海を守るためにできることを伝える普及啓発活動にも取り組んでいます。一般向けの啓発ハンドブック、ポスター、チラシなどの資料を作成し、湖沼や川、水路への水草の遺棄を防ぐための呼びかけを行っています。「湖沼・川・水路に水草を捨てないで!」といった啓発資料を通じて、新たな外来生物を増やさないための意識づくりを進めています。クビアカツヤカミキリや各種外来植物の発見時には、写真付きの見分け方資料を公開し、市民からの迅速な通報や、発見したその場での確実な駆除を促す体制を整えています。
企業・市民が参加可能な生態系保全および外来生物防除プログラム一覧

生態系の保全や水生外来生物を含む外来種対策は、行政や専門家だけで完結するものではなく、民間企業や地域住民、特定外来生物の駆除に携わる高校生ボランティアなどの参加が成果を左右します。近年の持続可能性経営やESG(環境・社会・ガバナンス)の文脈でも、多くの企業や団体が自主的な保全プログラムを立ち上げ、社会全体のネイチャーポジティブに貢献しています。市民やステークホルダーが参加可能な主な保全・防除プログラムの事例を挙げます。
-
沖縄における有性生殖サンゴの再生プロジェクト 八重山漁業協同組合サンゴ種苗生産部会や支援協議会が推進するプログラムです。天然のサンゴに頼らず遺伝的多様性を保つ「完全養殖サイクル」を用いて稚サンゴを育成し、サンゴ産卵ファームを形成する取り組みで、支援企業やボランティア、観光客が関与する機会も設けられています。石垣島のサンゴ産卵ファームは、サンゴ礁生態系におけるサンゴ再生を主目的とした日本初の「自然共生サイト」にも認定されています。
-
奄美群島・やんばる地域等における外来植物・外来生物の駆除活動 世界自然遺産に登録された地域では、世界自然遺産推進共同体や地元自治体が主体となり、ツルヒヨドリやナガエツルノゲイトウといった外来植物の駆除作業や、ビーチクリーン活動などの環境保全イベントが定期的に開催されています。民間企業や大学、地域住民が協働で参加し、固有種の生息環境を守る活動を進めています。
-
北海道長沼町・鶴居村におけるタンチョウ保全およびエコハーモニープログラム 北海道長沼町や鶴居村では、国の天然記念物であるタンチョウの保全活動に地域住民や企業有志が参加しています。特に長沼町等では、生態系の保全を学びながら人間社会との調和を目指す「エコハーモニープログラム」が実施されており、流域の子どもたちやステークホルダーが生態系ネットワークの形成を学ぶ学習プログラムや環境整備活動に参画しています。
-
ハワイ・ダイヤモンドヘッド麓でのレストレーション(環境修復)プログラム 海外の就航地における参加型プログラムの例として、ハワイのNPO団体が主催するダイヤモンドヘッド麓でのレストレーション活動があります。参加者は侵略的外来種の伐採や芝の整備、固有種の植樹などを手作業で行い、外来種によって損なわれていた自然環境の回復や、地域の憩いの場づくりに直接関わっています。
-
産学官民によるワカメ養殖・海岸清掃体験プログラム 佐賀県や唐津市などの地域では、養殖ロープを活用したワカメ養殖体験と環境教育、海岸清掃を組み合わせたプログラムが実施されています。子どもたちや一般参加者が、海の環境問題やCO2削減、生態系ネットワークの重要性を体験的に学び、地域社会全体で環境保全への意識を高める契機となっています。





