「カニカニ詐欺」の巧妙な手口と、家族を守るための具体的な対策

最近、ニュースやSNSで「カニカニ詐欺」という言葉をよく見かけるようになりました。なんだか少しユーモラスな名前ですが、その実態は私たちの心につけ込む、非常に悪質な電話勧誘販売なんです。特に、家族が集まる年末年始や、美味しいものが恋しくなる季節に被害が増えると聞くと、本当に心が痛みます。私も以前、実家の母が「北海道の業者さんからカニを安くするって電話があったんだけど…」と不安そうに話していたことがあり、決して他人事ではないなと実感しました。

この詐欺の主なターゲットは、電話応対が丁寧で、人の話を信じやすい高齢者の方々です。しかし、その手口は年々巧妙になっており、若い世代でも「もしかしたら…」と思ってしまうようなケースが増えています。電話口で聞かされた豪華な説明とは全く違う、質の悪い商品が法外な値段で送りつけられる。そんな悲しい思いをする人を一人でも減らすために、今日はこの「カニカニ詐欺」の具体的な手口と、私たち自身や大切な家族を守るための対策について、少し掘り下げてみたいと思います。

カニカニ詐欺の、あまりにも巧妙な手口

すべての始まりは、一本の不審な電話から。犯人たちは、まるで以前からの知り合いであるかのように、非常に馴れ馴れしく話しかけてきます。「以前、うちの物産展で買っていただいた方限定で…」とか、「いつもお世話になっている〇〇です」といった切り出し方で、こちらの記憶違いかな？と思わせるのが常套手段です。過去に一度でも通信販売で海産物を買った経験があると、「そんなこともあったかもしれない」と、つい話の続きを聞いてしまうんですよね。

そして、彼らは私たちの良心やお得感を巧みに刺激してきます。「コロナ禍で販路を失った漁師さんを助けるために、採算度外視で提供しています」といった同情を誘うストーリーや、「今お電話いただいた方だけに、通常5万円のタラバガニを半額以下で！」といった限定感を煽る言葉で、冷静な判断力を奪おうとします。「今決めてくれないと、この価格では提供できない」と決断を急がせ、考える時間を与えないのも彼らの特徴です。

さらに悪質なのが、電話で断ったにもかかわらず商品を一方的に送りつけてくる「ネガティブ・オプション（送りつけ商法）」という手口です。「検討します」といった曖昧な返事を「購入の意思あり」と勝手に解釈し、代金引換で商品を発送してくるのです。家族が知らずに代金を支払ってしまえば、返金を求めるのは非常に困難になります。消費者庁の報告でも、このような海産物の電話勧誘販売に関する相談は後を絶たないそうで、その手口の悪質さがうかがえます。

なぜ、私たちは騙されてしまうのか？

これほどまでに注意喚起がされているのに、なぜ被害は後を絶たないのでしょうか。それは、詐欺グループが人間の心理を巧みに利用しているからです。人は「限定」「特別」「あなただけ」といった言葉に弱く、「今を逃すと損をする」という焦り（フォーモ：Fear of Missing Out）を感じると、正常な判断がしにくくなります。

また、「困っている人を助けたい」という善意を利用するのも、彼らの得意な手口です。生産者や漁師さんの苦境を訴えられると、「少しでも力になれるなら」という気持ちが芽生えるのは自然なこと。しかし、詐欺師たちはその優しさにつけ込みます。電話口の相手が本当に信頼できるのか、その会社が実在するのかを確かめる前に、感情が先行してしまうと、相手のペースにはまってしまうのです。

加えて、高齢の親を持つ世代としては、親が「家族に迷惑をかけたくない」「自分で解決できる」と思い込み、一人で抱え込んでしまうケースも心配です。少しでも怪しいと感じたら、「支払う前に、必ず私に一本電話してね」と、日頃からコミュニケーションを取っておくことが、何よりの防御策になるのかもしれません。

被害に遭わないための、今日からできる対策

では、具体的にどうすればカニカニ詐欺から身を守れるのでしょうか。一番シンプルで、最も効果的な対策は、「知らない番号からの電話には出ない、もし出てもすぐに切る」ということです。特に、非通知や見慣れない市外局番からの電話は要注意。留守番電話機能を活用し、本当に用事のある相手からのメッセージを確認してからかけ直す習慣をつけるだけでも、リスクは大幅に減らせます。

もし電話に出てしまい、相手がカニや海産物のセールスを始めたら、「いりません」「興味ありません」と、きっぱり、はっきりと断ることが重要です。相手に少しでも期待を持たせるような曖昧な態度は禁物。「結構です」という言葉も、「良いですよ」と捉えられかねないので、明確に断る意思を伝え、すぐに電話を切りましょう。

そして、万が一、注文した覚えのない商品が代金引換で届いてしまった場合は、絶対に代金を支払わず、「受け取り拒否」をしてください。特定商取引法では、売買契約が成立していない商品を一方的に送りつけられた場合、消費者は代金を支払う義務はないと定められています。配達員の方に「注文していないので受け取りません」と伝えれば、それで問題ありません。もし家族が支払ってしまった場合でも、諦めずにすぐに最寄りの消費生活センター（消費者ホットライン「188」）や警察（警察相談専用電話「#9110」）に相談しましょう。

美味しいものを食べたい、という気持ちは、私たちの生活を豊かにしてくれます。しかし、その気持ちを逆手にとるような悪質な商法に、心を痛める必要はありません。少しの知識と、きっぱりと断る勇気が、あなたとあなたの大切な人を守る盾になります。

この情報が、少しでも多くの人に届き、悲しい被害がなくなることを心から願っています。今年の冬は、どうかご自身で選んだ、本当に美味しいカニを囲んで、素敵な時間を過ごしてくださいね。