「もう無理…」と感じる前に。過労死を防ぐためのメンタルヘルス対策

「過労死」。この言葉を聞くと、どこか遠い世界の出来事のように感じるかもしれません。でも、もし今あなたが「毎日疲れたな」「仕事に行くのがつらいな」と感じているなら、それは決して他人事ではないんです。私自身、夢中で仕事に打ち込むあまり、自分の心と体の悲鳴に気づけなかった経験があります。朝、目が覚めても体が鉛のように重く、大好きだったはずの仕事に向かう足がどうしても前に進まない。そんな経験、あなたにはありませんか？

現代の日本社会は、常に変化し、私たちは日々多くのプレッシャーの中で生きています。だからこそ、自分の心を守るための知識と具体的なアクションが、これまで以上に重要になっていると強く感じます。これは、特別な人だけの話ではありません。真面目で、責任感が強く、一生懸命に頑張る、ごく普通の人たちが、気づかないうちに心のバランスを崩してしまう。今回は、そんな悲しい現実を乗り越え、自分らしく健やかに働き続けるためのメンタルヘルス対策について、一緒に考えていきたいと思います。

「過労死」は他人事じゃない。その静かなるサイン

そもそも「過労死」とは、単に働きすぎて亡くなることだけを指すのではありません。厚生労働省の定義では、長時間労働など過重な業務が原因で脳卒中や心臓病などを発症して死亡すること、そして、仕事の強いストレスが原因でうつ病などの精神障害になり、自殺してしまうことも含まれます。命を落とすまでには至らなくても、心身に重大な不調をきたすケースも後を絶ちません。

最近のデータを見ると、仕事が原因の精神障害による労災請求件数は、実は増加傾向にあるんです。これは、多くの人が職場で強いストレスを感じ、心が悲鳴をあげている証拠と言えるでしょう。特に、真面目で完璧主義な人ほど、「自分がもっと頑張らなきゃ」「周りに迷惑はかけられない」と、一人で抱え込んでしまいがち。その結果、エネルギーが完全に枯渇してしまう「燃え尽き症候群（バーンアウト）」に陥ってしまうことも少なくありません。

「なんだか最近、よく眠れない」「好きだったものに興味がなくなった」「ささいなことでイライラしてしまう」。これらは、心が発している重要なSOSサインかもしれません。こうした小さな変化を見過ごし、「疲れているだけ」「気合が足りないからだ」と自分に鞭を打ち続けることが、最も危険なのです。まずは、自分の心と体の声に、静かに耳を傾けることから始めてみませんか。

心を壊さないために、今日からできる具体的なアクション

企業の労働環境改善や国の対策はもちろん重要ですが、私たち個人ができることもたくさんあります。自分の心を守るためのセルフケアは、甘えではなく、自分らしく生き続けるための「スキル」です。ここでは、私が専門家の話や様々な情報から学び、実践している具体的な方法をいくつかご紹介します。

1. 「何もしない」をスケジュールに入れる勇気

忙しい人ほど、「休むのが下手」だと言われます。休日に溜まった家事をこなしたり、自己投資のために勉強したり…。「何か有益なことをしなければ」という強迫観念に駆られていませんか？本当に心を休めるためには、意識的に「何もしない時間」を作ることが大切です。

スマホの電源を切り、ソファでぼーっとする。お気に入りの音楽を聴きながら、ただ窓の外を眺める。目的もなく近所を散歩する。最初は落ち着かないかもしれませんが、これが「脳の休息」につながります。デジタルデバイスから離れる「デジタルデトックス」は、情報過多で疲弊した脳をリフレッシュさせるのに驚くほど効果的です。スケジュール帳に「何もしない」と書き込んで、それを最優先事項として守ってみてください。

2. 仕事とプライベートの「境界線」を引く

特にリモートワークが普及した今、仕事とプライベートの境界線は曖昧になりがちです。しかし、この境界線こそが、あなたのメンタルヘルスを守る防波堤になります。終業時間を決めたら、パソコンを閉じ、仕事用のチャット通知はオフにする。物理的に仕事の空間とリラックスする空間を分けるのも良い方法です。

「あの仕事、どうなったかな」「明日の会議の準備は…」と、プライベートな時間まで仕事のことで頭がいっぱいになっていませんか？それは、心がまだ「勤務中」だということです。意識的に「今は休む時間」と自分に言い聞かせ、仕事のことから思考を切り離す練習をしましょう。趣味に没頭したり、家族や友人と他愛ないおしゃべりを楽しんだりする時間は、心を仕事モードから解放するための大切な儀式です。

3. 完璧じゃない自分を許す

責任感が強い人ほど、100点満点の仕事をしようと自分を追い詰めてしまいます。しかし、常に完璧でいることなど誰にもできません。時には「80点でOK」と自分を許してあげることが、心を軽くします。一つのミスで自分を責め続けたり、他人の評価を気にしすぎたりするのはやめましょう。

大切なのは、仕事の成果だけで自分の価値を測らないことです。あなたは、仕事ができるから価値があるのではなく、ただあなたという存在そのものに価値があるのです。このことを忘れないでください。疲れたら休み、できないことは「できません」と正直に伝える勇気も必要です。それは無責任なのではなく、長期的にパフォーマンスを維持し、自分自身を守るための賢明な判断なのです。

4. 頼れる「第三の場所」を持つ

家庭でも職場でもない、心が安らげる「第三の場所（サードプレイス）」を持っていますか？それは、趣味のサークルかもしれませんし、行きつけのカフェかもしれません。あるいは、オンライン上のコミュニティでも良いでしょう。利害関係のない人たちと繋がり、仕事とは全く違う話題で笑い合える時間は、心をリセットし、視野を広げてくれます。

そして、もし本当に辛いと感じたら、専門家を頼ることをためらわないでください。カウンセリングや心療内科は、心が風邪をひいた時に行く病院のようなものです。日本ではまだ少しハードルが高いと感じる人もいるかもしれませんが、専門家はあなたの心の重荷を軽くするための知識と技術を持っています。一人で抱え込まず、助けを求めることは、弱さではなく、自分を大切にする強さの証です。

私たちの人生は、仕事だけで成り立っているわけではありません。時には立ち止まり、自分の心の声に耳を澄まし、丁寧にケアしてあげること。それが、長い人生を健やかに、そして豊かに歩んでいくために、今、私たち一人ひとりに求められていることなのかもしれません。

どうか、頑張りすぎているあなた自身を、一番大切にしてあげてくださいね。